東京の中心で津軽弁を叫ぶ!
                   津軽弁の魅力でノックアウト

      鎌田紳爾さん                      

 
 
 

 「方言に惚れたが悪いか!」という挑戦的なタイトルのトークセッションが八月六日、ジュンク堂新宿店で開かれた。津軽弁のネイティブ・スピーカー鎌田紳爾さんと米国生まれの詩人で高木恭造の詩集「まるめろ」を英訳したアーサー・ビナードさんが津軽弁の魅力、翻訳の難しさ、楽しさなどを話し、「方言の面白さ」について多方面から語り合った。

 鎌田さんは弘前市の音楽家で作家、太宰治の「走れメロス」を津軽語にした翻訳家としても知られる。一方のビナードさんは大学卒業と同時に来日して日本語での詩作を始め、詩集「釣り上げては」で中原中也賞を受賞。青森放送でラジオ番組を持ち、毎月一回青森にやって来る「モツケ」。東京のど真ん中で繰り広げられた「津軽弁トーク」に観客も一緒に盛り上がった。

 鎌田さんの「ワイ どっでんしたじゃ」で始まったトークは津軽弁満載。「メロスを津軽語訳した時、暴挙だと言われた」という鎌田さんに対し、「津軽語訳は一種の発掘作業。三内丸山の発掘のように太宰の文学を掘り下げ、内的言語や津軽的なものを掘り出していった」とビナードさんは評価。鎌田さんも「訳しながら文章の句読点が非常に津軽弁に即したものであって、文体の持つ息づかいが津軽弁だと感じた」と応じた。

 ビナードさんは高木恭造の「まるめろ」を英訳した際の経験を語り、「ある土地に深く根ざした言葉はヒジキなことが多い」とユニークな喩えを披露。「一語一語の単語にいろいろなものが染みこんでいて、翻訳するとき、これくらいかなと水に浸しておいて、ふと気づくと『おんろ〜』と増えている」と話し、翻訳の難しさをユーモラスに表現した。
津軽弁の詩をどうやって英訳するのか聞かれることが多いというビナードさん。「津軽弁は独特のオーラを放つ言語。単なる単語の移植作業でなく、言葉の深さを生かしながら、全体の雰囲気と感覚で訳していきます」と語った。最後にビナードさんの詩「青森」を鎌田さんが津軽語に訳して朗読すると、味わい深い言葉の響きに会場からどよめきが起こった。

 会場から「正調『へばの』のイントネーションが知りたい」と質問が出、鎌田さんは「へば おしずかに〜」、ビナードさんは「へばナイスディ」と答え、英語と津軽弁は「ふどじでばな〜」と沸き立った。東京で聞く「津軽弁」は力強いパワーと抜きんでた表現力を感じさせ、「方言に惚れたが勝ち!」と思い知った新宿の夜だった。

                                         (ライター・清水典子 陸奥新報8月14日文化欄掲載)













 

 


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