「故郷弘前からこぎん刺の新たな魅力を発信」


   
狩野 綾子さん                          弘前市出身のこぎん刺作家

 

 「津軽こぎん刺」というと、藍地に生成の糸で刺す作品を思い浮かべますが、狩野綾子さんのこぎん刺はちょっと違います。オレンジ色の麻地に生成の糸で文様を施したティーポットカバー、カーキ色の麻におしゃれなグリーンブルーの糸という組み合わせのクッション。
生成の布に白い糸で刺した作品はまるで雪の結晶のよう。「これもこぎん刺?」と目を見張る私に「文様はすべて伝統的なもの」と微笑む狩野さん。よく目にするこぎん刺となぜこんなに印象が異なるのでしょう。

織り目が規則的で目の詰まった布に定められた文様をきっちりと刺していく伝統的なこぎんに対し、狩野さんは粗く不規則とも思える布目の麻を選び、伝統の文様をさまざまに組み合わせます。柔らかく刺した糸のふんわり感があたたかく、優しい印象。色合いの多彩さと相まって、現代の私たちの暮らしにもしっくりと馴染みます。

狩野さんがこぎんを刺し始めたのは今から八年ほど前。それまでパッチワークや裂織りなどを手掛けてきましたが、こぎん刺には興味をひかれなかったといいます。「故郷に帰った時目にするこぎん刺は、お土産として売られているもので、今の暮らしに寄り添ったものには思えませんでした」。そんな狩野さんに「自分らしいこぎんを刺してみたら」と声を掛けたのが、ギャラリーを営む稲垣早苗さんでした。図書館に行き、こぎん刺の伝統の文様を調べ、改めて基礎模様「もどっこ」の美しさに驚いたといいます。それから手探りで「自分のこぎん刺」を模索してきました。

 平成十八年、稲垣さんが日本橋に新たにオープンしたギャラリー「ヒナタノオト」に、狩野さんは「針の森」という名で自分の作品を並べました。ミニポーチ、持ち手にこぎんを刺したサブバッグ。並べるそばから若い女性たちが購入していきました。自分でも刺してみたいという女性が増え、こぎん刺のワークショップも何回か開きましたが、いつも満杯という人気。「北欧の刺繍を思わせる色遣いと雰囲気が若い人の感性に合うのでしょうか」と狩野さんは話します。

 今年の十二月十七日から十九日まで、弘前市立百石町展示館で大きな作品展を開きます。「これまでは伝統の地に自分の作品を持って行くのにためらいがありましたが、私はこんなこぎんを作っていますという気持ち。見て、感想を聞かせてもらえたらうれしいです」。クリスマスツリーを思わせるタピストリー、生成に赤い糸で「猫の足」「紗綾形」など「もどっこ」を刺した愛らしいクッション、布目の大きな生地にベージュピンク、ミントグリーンなど淡い色調の綿糸でさっくりと模様を施したブランケットなどさまざまな作品が並びます。
「飾って眺めるだけでなく、本来のこぎんがそうだったように、実際に使って、汚れたら洗い、風合いや色合いが変化していく姿を楽しんでほしい。身に着け、触れて気持ちのいい作品をこれからも作っていきたいです」。故郷での初個展ではこぎん刺の新たな魅力が提示されそうです。

                                          (文責・清水典子)




 

 


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