「青森出身東京人の視点で
        
          いつか故郷を描きたい」

 
   山内マスミさん    
             弘前市出身のイラストレーター

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 昨年の九月、東京吉祥寺のギャラリーで開かれた個展会場で山内マスミさんと再会した。故郷弘前での個展から四年。柔和な笑顔は変わらなかったが、積み重ねてきた仕事への自信が、マスミさんを一層輝かせているようだった。

 昔懐かしい雰囲気と時代の先端を感じさせる空気がない交ぜになったまち吉祥寺は、マスミさんの作品を眺めるのに最適な舞台と思われた。会場には一九九七年から描き続けてきた「ノレン」と名付けた作品百点が満艦飾の旗のように、壁を埋め尽くしている。

 「ノレン」は音楽グループ「クラムボン」のライブの装飾として描かれてきた暖簾の形をした絵で、らくがき帳や和紙を素材に、羽根を広げて空を飛ぶ鳥、森や太陽、海などが水彩やアクリル絵の具を使い、シンプルなタッチで自由にのびのびと表現されている。素朴で枠にとらわれないおおらかさ、やさしさとあたたかさが見る者を惹きつける。

 マスミさんは「世界がもし100人の村だったら」のシリーズをはじめ、「地球では1秒間にサッカー場1面分の緑が消えている」「やさしいことばで日本国憲法」などの挿絵や装丁で知られ、青森県では地元銀行のカレンダー、新聞社が発行している生活情報誌のエッセーなどでもお馴染み。子供時代を思い出させてくれる作品に魅せられたファンは多い。

 高校時代までを過ごした弘前や青森の情景を描いた作品は絵葉書となり、青森県立美術館のショップで販売されている。岩木山とリンゴの木、失われてしまった繁華街の町並み。「故郷からの仕事の依頼はとてもうれしかったです。青森にはいいものがたくさんある。青森の良さを首都圏の人にも知ってほしい、知らせたい」と言葉に力を込める。

 最近関心を持っているのは食や農業、環境にまつわるもの。関東の生協「パルシステム」から依頼を受け、HPや冊子、パンフレット、カレンダーなどに絵を描いている。パルシステムが進めている「ごはんをたくさん食べよう」という運動の一環で田んぼに暮らす生き物たちのイラストを描いた。

 「弘前生まれでありながら、田んぼや畑をまじまじと見たことがないと気づきました。絵を描くため、農業体験もしました。これまでリンゴの木を描いてきましたが、もっとじっくりリンゴの木や園地を見つめてみたいと思いました。何気ない田舎の風景、里山の情景をもっと描きたい。愛情がたっぷり注がれて育った野菜や果物のことを改めて知った気がしたのです」。

 青森県出身だと東京で話すと、みんなが興味を示してくれる。「青森のどこ?」と必ず聞かれるので、自信を持って「弘前」と答える。「桜を見に行ったことがある」「太宰治が学生時代を過ごしたまちだね」といい反応が返ってきて、うれしい。「ねぶたやねぷたを見たいという人も多いですよ」。昨年の十月、明治神宮の広場で開かれたイベント「とことん青森」で扇ねぷた、人形ねぶた、八戸三社大祭、立倭武多を眺め、マスミさん自身とても感激したという。

 「今後青森で個展を開くのなら、故郷を離れて二十年経った私の視点で見た青森、新しい発見を描いてみたい。青森で何かを一緒にやりたいと思っている県出身の友人が東京にはたくさんいます。地元のひとたちと力を合わせて何かできたらいいですね」と笑顔がこぼれた。                                                                                

                                            (文責・清水典子)








 

 


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