「冬場はやっぱり怖いですよ。教習する人に命を預けているようなものですね』。こう話すのは米田安希子さん。弘前モータースクールの技能指導員になって3年半になる。
にこやかに話すが、去年の冬は教習中を無理に追い越そうとした後続車が滑っで転倒し、事故に巻き込まれそうになった。
「アーッもう死ぬ」と本当にそう思ったという。
教習所の先生と聞いてなんとなくシャキシャキしたタイプを想像していたが、物静かでじっくり考えなから話してくれる。
「エンジンがかかるまでは時間かかかるけれど、いったんかかるとワーッと走るタイプ」と自己分析する。
指導員になろうと決心した時もそうだった。パートで働きながら、女手ひとつで二人の子を育てていた安希子さんは「女性指導員募集」の記事を新聞でみつけ熟考した後、履歴書を郵送した。「日曜日、祭日が休みで、正社員になれるというのが一番の魅力でしたね。しっかりした仕事に就きたいというのが願いでしたから」。
「面接の時、賃金のことばかり聞いていたと今でも笑い話になるんですよ」と安希子さん。若い受験生が多い中、最年長の安希子さんは入社試験に見事に合格。が、それからが大変だった。
実地試験に備えての運転の練習、法令などの教科、指導法などを必死で勉強」た。「30過ぎてからの勉強はひと苦労でした。覚えるのに時間がかかる。
人の倍以上やらないとついていけなくて。夜中に起きて朝方までやったり、生れて一番勉強したのがこの時でしたね」と笑う。
そしてこの時の経験が指導員になった今、とても役に立っている。年配の教習生の気持ちが手にとるように分かる。だから教習に手間取った人が免許が取れたと報告に来てくれるのが何よりも嬉しい。そんな時はやっていて良かったと心から思うと言う。
悲しいのは「女には教えられないだろう。女には注意されたくない」などと言われる時。
若い男の人に多いという。そういう男の子に会うと悲しくなる。
安希子さんの朝は早い。5時には起きて中学生の子のお弁当と朝食と遅番の日は夕食まで用意する。きょうは遅番ですか? 朝、夕飯用に中華丼を作ってきました。温めて子供2人で食べていると思います。子供を一人前にするまで、私も頑張らないとね」。
最後の教習の時、「無理はしないで。事故を起こさないでね」と教習生に話すという安希子さん。頼れるお姉さんといった雰囲気が教習生に人気の秘密かもしれない。
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