「奇妙な違和感と懐かしさの狭間で故郷を撮る」

                  川柳とフォトのコラボ集を出版した青森市出身の
    藤田めぐみさん    

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 「九時五分発という名の物語」。この川柳には八甲田丸の脇に置き忘れられた電車の写真が添えられている。川柳とフォトのコラボレーション「LONGSHOT」。青森市出身の写真家藤田めぐみさんがつがる市在住の川柳作家濱山哲也さんと作り上げたものだ。

 「写真も川柳も一つの解釈にとどまらない。シャッターを切ることと居合い抜きみたいに突き刺さってくる川柳の感覚はよく似ている。一人の読み手として句を楽しみ、私はこう感じたのという答えみたいな写真を添えました」と藤田さん。

 「文面に合わぬ切手が貼ってある」「『温めますか』毎日聞かれ生きている」。添えられた藤田さんの写真は、川柳に近づき過ぎず、遠過ぎず、近づいたり、離れたりしながら、川柳の世界を包み込んでいく。

 私が藤田さんと最初に会ったのは二〇〇八年の夏のはじめ。東京目黒にあるギャラリー「1530064」で行われた藤田さんの初めての個展「快気内祝」の会場だった。

 小さな白い空間に貼られた写真は七十八枚。二〇〇六年六月から一年間、悪性リンパ腫という血液のがんと闘う人間の姿が撮影されている。藤田さんがコンパクトデジタルカメラで自分自身の闘病生活を撮ったものだ。

 「あの日々は非日常ではなく、患者にとってはあれが日常。病気の渦中にいた時は分からなかったことが、写真を並べることによって自分で合点がいくような気がした。病気になって病院で出会えた人たち、支えてくれた友人達に元気になった私を快気内祝として贈りたいと思ったのです。先に天に召された仲間たちには、とりあえずこっちで元気にやっているよって伝えたかった」と藤田さんは笑う。

 坊主頭で泣く姿。病院の食事。逝った仲間。笑顔。検査中も片手でカメラを持ち、自分自身にレンズを向けた。淡々と自分の日常を撮影した。来場者からは「生命力を感じた」「元気が出た」という感想をもらった。歌謡曲のように人の人生に寄り添う写真を撮っていくのが夢だ。

 発症当時、保健師として忙しい毎日を過ごしていた藤田さんは仕事に疲弊し、「出家したい」が口癖だったという。「私、病気を通して一回死んだのだと思います。望み通り坊主頭になり、修行をし、再生した。快気後は好きなことだけして生きていきたいと思いました」。

 今は好きな映像の仕事に携わっている。そんな中で出会ったのが川柳だ。青森市の川柳作家菊池京さんの川柳とフォトのコラボ「そんな気がしてた」「倒立前転」はフォト・シネマと題し、藤田さんが選んだ音楽をバックに、写真と川柳をまとめ、ドラマや映画を思わせる作品に仕上げた。自分でも川柳を作り始め、川柳と写真、それぞれに面白いが、一緒になることで広がるフォト川柳の世界を模索している。

 故郷青森を出てから十七年が過ぎた。青森に行くと自分がかつて居た場所を写真に撮ってくる。「中途半端な旅人のような気持ち。気持ちを寄せたいのに寄せきれない。でも街を歩けばあちこちに自分の影や思い出の残骸が落ちている。それを拾い上げ、しげしげと眺めると奇妙な違和感と懐かしさがないまぜになっていますね」。その違和感を藤田さんは「あおもり」ではなく「あをもり」と表現し、シリーズで青森を撮影している。母校青森東高校が解体される姿もカメラに収めた。いつか青森市でも個展を開きたい。そこに違和感ありありの故郷「あをもり」を展示したいと思っている。

 藤田さんのHP http://megmego.com/

                                                                                    (文責・清水典子)








 

 


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